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6.傷ついた翼 ―2― [吹きゆく風と、沈む夢【完結】]

 火の爆ぜる暖かな音に包まれて、ラティアは眼を醒ました。
「ここは……」
 一人、呟いて半身を起こし辺りを見回すと、薄汚れた木造りの小屋の中にいることが見て取れる。
 部屋の中央にある崩れかけた炉には、小枝が大量にくべられていた。暖められた室内のおかげだろうか、あれほど冷えていた身体が今は額に薄く汗が浮かぶほど温かい。
「リギアの言っていた、廃屋かな?」
 風邪でもひいたのだろうか。少し頭が重たい気がして、ラティアは苦く笑った。自分の上に掛けられている布が、リギアのマントだと悟り彼を目で探す。リギアは炉を挟んだ対面側に横たわっていた。眠っているのだろうか。天井を仰ぐように上を向き、動かない。
「リドル」
 ラティアは小さく呟いた。憎しみと、愛しさ。その両極にある感情を込めて。
 ゆっくりと立ち上がり、彼の許へと歩み寄る。途中、古びた床の木板が軋み耳障りな音を立てた。
 リギアに彼のマントを掛けてから、彼女は瞳を細めて静かに彼の傍らに腰を下ろす。しばらく迷う素振りを見せてから、そっと手を伸ばして眠っているリギアの額に触れた。
「リギア」
 彼の肌は暖かく、そのぬくもりに何故だかラティアの胸は締め付けられるようだった。視線の端に彼の腰から外されて横に置かれた剣帯が映り、無意識にそちらへ手が伸びる。
 短剣に指を触れ、瞬時迷った後で彼女はそれを引き抜いた。金属の擦れる高い音が響き、思わずラティアは眼を眇める。
 一見、軽いように見えた短剣は、意外と重たくずっしりと彼女の両手に納まった。
 銀色の、美しい刃に目を魅かれながら、右手だけで剣を持ち替え左手の指を刃の平に滑らせる。剣はよくよく手入れされていて、曇りのないように見えた。けれども、つい先程、これは人の血を吸ったのだ。
 ゆっくりと、炉で燃え盛る炎に向けて彼女は短剣をかざしてみた。銀の刃が火を反射して鋭く光るが、僅かに鈍く曇った色が混じる。
 それは、ひとつの証であった。
 ラティアは肩を落として嘆息し、唇を噛み締めながら眼を伏せた。
 この刃は、どれだけの血を流し、憎しみを生み、苦しみを与えてきたのだろうか。そして、それを与える彼はどれだけの痛みを抱えているのだろうか。
 力なく双眸を閉じ、ラティアは掲げていた手を下ろした。
「リギア……私はどうすればいいのかな」
 囁くように声の調子を落とした彼女は、両手で短剣を握り締めてリギアの左胸に押し当てる。
「あなたが好きよ、この世界で一番。けれど、一番憎いと思うのもあなたなの」
 短剣を握る手に力を込め、彼女は弱く左右に首を振った。
「どうして、あなたはお父様達を? どうして、あなただったの? 再会なんて、しなければ良かった? それとも、最初から出会わなければ……?」
 答えのない問いを繰り返す彼女の瞳から、大粒の涙が溢れる。短剣を床に置き、ラティアは両の掌で己の顔を覆い隠した。
「どうしたらいいか、わからないよ……」
 戸惑いと苛立ちの混ざった声音で独白した瞬間、不意に強い力で抱き寄せられる。
「ラティアのしたいように、すればいいんだ」
 いつの間にか起き上がっていたリギアが、驚いて息を呑んだ彼女を抱き締めそう強く囁いた。

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