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3.過ぎゆく日々の中で ―4― [吹きゆく風と、沈む夢【完結】]

 拓けた場所で火を起こし灯りを確保してから、アスエルは行方不明の御者を探しに行った。彼が様子を確かめに外に出た時には、御者の姿はなく馬車を引く馬は制御を失っていたという。それも、ひどい興奮状態だった。
 待っている間に眠ってしまった二人をぼんやり見つめていると、沈痛な面持ちでアスエルが戻ってきた。そして、深く息を吐きながら火の傍に座り込む。
「思った通りだった」
「殺られてたか?」
 低く問い返すと、彼は小さく頷いてみせる。
「左胸に矢が一本。即効性の毒が矢尻に塗ってあった。あれは素人の技じゃない」
「それにしては、やり方が手ぬるくないか?」
 抱きかかえていたルフィをアスエルの腕に返しながら、そう問う。
「警告だろうなあ」
 涼しい顔で言いのけて、アスエルは積み重ねてある小枝をいくらか手に取った。
「あんた、暗殺者に警告を受けるような事したのかよ?」
「あぁ。あー、まぁ、したのかもな」
 曖昧な調子で呟き、小枝を火の中へと投げ入れる。
 答えるつもりが毛頭も感じられないその口調に、リギアは口を噤んだ。人には触れられたくない事もあるものだ。
「埋めて来たのか?」
 袖口が土で汚れているのを見て取り訊ねると、アスエルは無言で頷いた。
「クルスについたら、馬車商会に行って、死体を引き取らせよう。ここからクルスまでは歩いて行くしかないし、そうなると運んで行くのは無理だからな」
「ああ」
 相槌を打ちながら、リギアは自分の膝に頭を預けて眠っている少女の髪を撫ぜる。
「おまえ……本当にその娘の事が好きなんだな」
 唐突にそう断言され、リギアは大きく眼を見開いた。それから照れ隠しなのか不愉快そうな表情を浮かべる。
「なんだよ、それ」
「いや。いつも硬くて、どっちかと言えば冷たい眼をしているおまえがさ。ラティアちゃんを見ている時だけは、優しくて暖かい眼をしているんだ。とても幸せそうに見えるよ」
「こいつは、俺にとって救いだから。俺の闇を光で満たしてくれるのは、こいつしかいないから」
 表情を和らげると、彼はアスエルからは眼を反らしたままで小さく呟いた。
(一年前、何も言わずにいなくなられた時は、荒れたよな)
 自虐的に笑い、俯くリギアを横目で見る。歯がゆいような表情を浮かべていたアスエルだが、不意に顔を上げ闇の中に耳を澄ました。
「リギア。何か、妙な気配を感じないか?」
「ああ。野盗か、何かか」
 平然と言ってのける彼に呆れた視線を向けながら、アスエルは再びルフィを彼に預ける。そして、立ち上がると同時に長剣を抜き放った。
「まぁーな。この稼ぎのなさそうな季節に、女子供連れて森の中にいればな。いい餌食には違いねぇ。野盗くらいは俺一人でどうにかなるさ。ルフィとラティアちゃんを頼むぞ」
 何か言いたげにしているリギアに、心配ないと笑いかける。
「出向いて行って、片付けてやるさ。ま、殺しはしないけどな」
 そう言って夜闇にまぎれたアスエルが戻って来たのは小一時間後の事であった。「一網打尽だ」などと豪快に笑っていた言葉どおり、クルスへと向かう道すがらにはロープできつく縛られた人相の悪い男達が転がっていた。
「あの人達、どうしたのかしら」
 ラティアとルフィは彼らをしきりに心配し、その背後ではアスエルとリギアが顔を見合わせて苦笑いを浮かべていた。

 数日後。彼らは何事もなくクルスの門をくぐる。


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