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2.湖畔の出逢い ―4― [吹きゆく風と、沈む夢【完結】]

「おい、おっさん。どうしてそんな」
「そう。まだまだ時間はあるし。バルゼまで行くのなら終点まで一緒でしょう? だったら、仲良くしましょうよ。ね、お姉ちゃんのところへ来ない? ……ええと」
 ラティアのところへ来たいのだろう。少女はじたばたと義父の腕の中で暴れている。
 男はひどく辛そうに唇を噛み締めて、軽く義娘を抱きしめてから差し出されたラティアの腕に少女を渡した。
「ルフィだ。この先、長く同じ馬車で移動するから気を使ってやったんだぞ? 怯えられたり、騒がれたりしても、迷惑だからな」
 投げやりに言って鼻を鳴らす男を横目に、リギアは少女の顔を覗き込む。そして、軽く眼を見開いた。
 目鼻立ちのはっきりとした、愛らしい、賢そうな少女だった。年の頃は、五、六歳であろうか。
「かわいいねぇ。ルフィ。私、ラティアよ。仲良くしようね?」
 顔色ひとつ変えずに、ラティアは少女に語りかけている。男とリギアはそろって眼を見張った。
 少女の瞳は鮮やかな紫。即ち、それは、彼女が魔族である事を物語っている。
「おい、まさか……この娘は、知らないのか?」
 紫の瞳の示す意味を。言外にそう問われて、リギアは困惑した。
 彼らが生きる世界は『雅羅』と呼ばれている。天界の神王たる龍空が定めし理に組み込まれた世界だ。
 リギア達の住む西方大陸『クシュア』と『碧花』と呼ばれる東方大陸。そして名もなき島々。それらで構成されるこの世界で、かつて人族と魔族は共存し両種族間の混血児までもが産まれていた。それほどに似通った生態であった。
 しかし、時を経て両種族は対立。人族が勝利をおさめたその戦いの折、魔族は悪魔と誓約を交わしその姿を醜く変えた。
 その後、月日を経て、人の遺伝子の中に含まれる魔族の遺伝子が、突然変異的に具現するようになった。彼らは人より秀でた何らかの才能を持ち、一様に紫の瞳を持っている。今は魔物と呼ばれる、彼らの祖にあたる魔族たちがそうであった事から、人々は彼らを魔族と称するようになった。
 己より先天的に優れた存在に対する妬みや恐怖心から、人々は魔族を卑下し差別視した。現在、数において圧倒的不利な立場にある魔族達は、理不尽な暴力から逃れる為にひっそりと日々を送っている。
「いや、まさか。この国……この大陸に暮らす者で知らないなんて事はないだろ。俺はこういう商売してるから、仲間内にも魔族いるし。気にならないんだが」
 しばらく思案した後で、リギアは竪琴を爪弾く真似をしてみせながら言った。
「ルフィを拾って二年。方々を旅して来たんが、こんな反応は初めてだ」
 男はそう言うと、ラティアの無邪気な表情をくいいるように見つめる。何か算段があるのではないか、探るような瞳になってしまう。
 そんな二人の様子に気付いたのか、手荷物から取り出した櫛でルフィの髪を梳いているラティアがくすりと笑った。
「亡くなった父が良く言ってたの。魔族などと言う種族はいないのだって。魔術師とか、司祭とか。そういう特殊な力を持つ人達を呼ぶ称号のようなものだ。瞳が紫で、生まれつき強い魔力を持つ人の事を指す言葉なのだって。だから、間違った認識で人を傷付けてはいけないよって」
 男は「へぇ」と呟いて、再度ラティアの表情を伺う。
「あんた、相当いいとこのお嬢さんだろ? そんなとこの親父がそういう教育してるなんて驚いたな」
「う、んと、それ程の家柄じゃないのよ。王都を中心に展開している中規模の商会よ」
 小さく首を傾けながら、ラティアはやんわりと男の誤解を正す。その膝の上で、ルフィが嬉しそうに笑っていた。話の合間に、宿に着いたら髪を結いましょうねと約束を交わしたからである。
「まぁ、そんな事はどうでもいい。何だか、おまえ達に興味が湧いて来たよ。俺の名はアスエルだ。しばらくの間、よろしくな」
「ああ。俺はリギアだ」
「私は、ラティア。よろしく、アスエルさん」
 何のてらいもなく言い、微笑みを浮かべるラティアの横顔を、眩しそうに眼を細めてリギアが見つめていた。その視線に気づき、恥じらうように頬を染めるラティアの様子に、アスエルは僅かに唇を歪ませる。明るく気丈に見えるこの娘が背負う濃い影が、一見幸せのただ中にあるようなこの二人に強烈な違和感をもたらしていた。
 アスエルの口許に、自嘲的とも見える笑みがはりつく。
「本当に、おもしろい奴らだよ」
 囁きよりも小さなその声は、誰にも届く事のないまま虚空に吸い込まれていった。


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