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―プロローグ― [吹きゆく風と、沈む夢【完結】]

 次第に強く、激しく躍り上がる炎の熱で、互いの姿が揺らいで見える。
 一夜の宿にと決め込んだ、この廃屋から火の手が上がったのは何故だろうか。そんな事が、ふと脳裏をよぎりそして消えていった。
 向かい合う娘の手には、朱く炎を映す短剣が握られている。小刻みに揺れる剣先が躊躇いながらも己に向けられている事を悟って、彼は曖昧な微笑みを唇に刻んだ。
(これが、報いなのか)
 堅い靴音をたてて娘が歩み寄って来る。あの優しい淡緑の瞳を、今はただ哀しみに染めて――。
 彼は微動だにせず、笑みを消しさった表情のない瞳で前方を見つめ、娘がやって来るのを待ち受けた。娘は彼の目前で足を止め、唇を噛みしめる。
 その両眼から涙が溢れている事に気付き、彼の心は不意に幸福で満たされた。
(おまえの怒りも、憎しみも、悲しみも。全て受け入れるから)

 ――だからおまえは、どうか生きて欲しい。

 己の命を奪おうとする娘を、抱きしめようとでもするかのように彼は大きく腕を広げる。その瞬間、娘は大きく眼を見開いた。そのまま苦しげに表情を歪ませて床に崩れ落ちる。
 突然の事に彼は動揺し、一歩足を踏み出した。
 その視界を、炎の色が覆い隠す。紅蓮の炎が、眼に映る全てのものを飲み込んでいく。
 瞳に映り込むのは、猛り狂う緋の炎。

 もう、緋色しか見えない――――。




1.始まりを刻む時 ―1―→
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MIZURI†

初めまして。

MIZURI†といいます。


自分と似たような趣味をもってる人はいないかと探していたところで、あなたのブログを見つけました。


【吹きゆく風と、沈む夢】のプロローグ、読みました。
なかなか面白そうで、続きが読みたいです☆


また来ます。



MIZURI†
by MIZURI† (2010-03-22 14:20) 

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