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夢迷宮【完結】 ブログトップ
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夢迷宮:あとがき [夢迷宮【完結】]

2001年07月03日 初稿。
2005年02月12日 改稿。
2009年09月18日 再改稿。

上のペースを見ていると、どうも四年に一度改稿したくなるらしいですね(笑)
こんにちは、志乃原睦姫です。

このお話は、元々は仲間内で作成していたヴォイスドラマのシナリオでした。
その時点でも充分に暗い暗いお話だったのですが、2001年に小説にするにあたりもっとドス黒くなった次第です。

元来、私の書くお話には夢も希望もない傾向があるようで、世界観はいつも暗いです。
真っ黒です。
本人、お気楽人間なのにどうしてでしょうね???

さて。
改稿を重ねたわけですが、2001年の時よりはレベルが上がっているといいなぁと思います。
私自身もちょっとは成長したいですしね。。。

元々のお話で私が訴えたかったのは「世界でただひとりの大事な自分」ってこと。
何だか、良くわからなくなってしまいましたが。
その他にも色々と詰め込んだメッセージ。
それを少しでも感じ取っていただけていたら、幸いです。

最後になりますが、ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。
つたない文章に、水をぶっかけたくなったかもしれませんが、お許し下さい。
Blog版から初めて読んでくださった方。
以前のverを読んでくださっていたにもかかわらず、またこの作品を読んで下さった方。
どちらも、本当にありがとうございました。

よろしかったら、感想などコメントにてお聞かせ下さいませ。


2009年09月     志乃原 睦姫

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SCENE14 終章 [夢迷宮【完結】]

「消えたな」
 少女達の消えた空間を見つめながら、なごり惜しそうに『旅人』が呟いた。
「ああ。消えたな」
 感情の窺い知れぬ深い瞳で、『魔術師』が相槌をうつ。
「最初の印象と違うよ。僕は、あの子、自分を見つけられないか、見つけてもここに残るって思ってた」
 つまらなそうに、尻尾を揺らしながら黒猫が言った。優しい瞳で『使い魔』に視線をやってから、彼はそっと嘆息をもらした。
「しかし、興味深い夢だった」
「ああ。確かにな」
「成長って、いうの? ああいうのって」
 そう、主人を見上げる黒猫に、からかうような調子で『旅人』が言葉をかける。
「おまえさんも、夢ってヤツを旅してみるか?」
「どういう意味だよ」
 むすっと声の調子をおとして、黒猫が毛を逆立てた。
「いい加減にしないか」
 不機嫌そうに『魔術師』が言うのを聞いて、『旅人』はその碧眼を僅かに細める。
「じゃ、俺はそろそろ行くとするかな」
「ほ、本当かっ?」
 途端に金色の瞳を輝かせる黒猫を、軽く睨み付けて『旅人』が笑う。
「そんなになごり惜しいなら、もう少しいてやってもいいんだぜ?」
「ンなわけないだろっ! とっとといなくなってくれよっ」
 悲鳴のように黒猫が叫ぶのを聞きながら、『旅人』はわざとらしく軽やかな笑い声をあげた。
「じゃぁなっ! また、会おう」
「二度と来るな」
 戻って来られるのも嫌だったので、黒猫は誰にも聞こえぬように小さな声で呟く。それをしっかりと聞き取っていた『魔術師』は、黒猫にわからぬようにそっと笑みを零した。
「では、我々も行くとするか?」
「行くって、何処にですか? ご主人様」
 きょとん、と首を傾げてみせる『使い魔』に『魔術師』は微笑みを向ける。そして、低く落ち着いた声で囁いた。

「この迷宮の、夢達が導く場所へ」



 其は、迷宮。
 夢をうつし、彷徨いゆく。
 永遠に終わりなき、時の迷宮――。



-完-


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SCENE13 帰還 ~ゆるやかにかわりゆく~ [夢迷宮【完結】]

 争うような、声が聞こえた。
 それが、誰のものなのか、良く分からない。けれども、無性に悲しくなった。とても、哀しくなった。
 ゆっくりと、瞼を開いてみる。その瞳に、二人の人影が映った。良く知っているが、とても遠い人たちの姿だ。

 今まで、この人たちの眼には自分の姿が映らないのだと思っていた。しかし、それは間違っていたのだ。

――誰かひとりのせいじゃない。
――すべての人たちの。
――みんな、少しだけ言葉が足りなかっただけで。
――みんな、少しづつ本当のことが見えていないだけで。
――そして、私達も……。

 己の責任を押し付け合うように。近しくて遠い存在の彼らは、声を押し殺して言い争いを続けている。
 彼女はゆっくりと眼を開いた。染みのない、飾りもない白い天井が視界を覆う。横たわる白い寝台の傍で揺れる薄いカーテンだけが、微かに青の色彩を持っている白い白い部屋。
「もう、やめて?」
 自分の腕につながっている、点滴の細い管を見つめながら彼女はそう言った。か細い声に、ピタリと言い争いを止めて彼らがこちらに注目する。

――そう。見えていないわけではないの。
――ただ、お互いに、すれ違うだけで。

「ごめんなさい。わたし、どうかしてた」
 久しぶりに、自分の声を聞いた気がした。彼らは何かを必死に叫んでいるようで。やっぱり、彼女には良く聞こえなくて。



強くなるね。わたし。そして、いつか、あなたのその孤独な心を癒せるようになるから
 暗闇の中。『少女』が小さく囁いた。
だから、その時には。笑顔で迎えてね?
 声と共に。その姿が闇に溶け込んでゆく。


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SCENE12 選びとった未来 [夢迷宮【完結】]

「ねぇ。戻ってこないよ? 夢はもう終わっているのに、眼を閉じたままだ。大丈夫なんですか? ご主人様?」
 眼を閉じたまま微動だにしない『少女』の足を、前足でつんとつつきながら黒猫が言った。
「案ずることは、ない。今、彼女は最後の夢を見ているのだから」
「最後の? けれど、迷宮は何も映してはいないじゃないか」
 訝るように碧眼を細め、『旅人』は鬱蒼とした様子の長身の男を半ば睨み付ける。
「ああ。この夢は、彼女だけの『夢』だからな。管理者たる私ですら、立ち入ることが許されない」
 口許に微かな自嘲の色を滲ませて、『魔術師』は佇む『少女』の頬に触れた。
当たりまえだ。誰がおまえ達などに見せてやるものか
 唐突に背後から声がして、黒猫はぎくりと身体を硬くする。振り向かずともわかっている。『少女』のものと全く同質の。けれども、印象の違う澄んだ声。
「どうして君は、そう、出たり消えたり、忙しいのかなぁ?」
 ひどく驚いたことを隠そうとするように、『使い魔』は声を張り上げた。完全にそれを見抜いている『影』は、せせら笑うように唇の端を僅かにつりあげる。黒猫は小さくちぇっと舌打ちをして、主人の後ろに逃げ込んだ。
「そろそろ時間だ」
 ゆっくりと開かれた『少女』の黒眼に、しっかりと目線をあわせて『魔術師』が告げる。
「決めるが良い。おまえの……あるべき処へ戻るか、否か」
 『少女』は淡く微笑んだ。迷宮の住人達を順々に見つめ、最後に『魔術師』に視線を留める。
わたしは、自分をみつけたわ。忘れようとしていたことも、全て、今はわかっている。だから、もう夢に喰い殺されることはないのでしょう?
「そうだな」
それと、聞かせて欲しいことがあるの。あなたは……あなたが愛した娘を亡くした時後悔した?
 唐突にも聞こえるその問いに、『魔術師』は苦笑を浮かべた。
「ああ。自分の行いが許せなかった。今でも私は私を許せないでいる。……あの時ほど、時間を操れたならと願ったことはないな」
 『少女』は彼から視線を反らし、『使い魔』と『旅人』に黒眼を向ける。
あなた達も? 後悔したこと、ある?
「後悔ねぇ……」
 微笑とも苦笑ともつかない顔で、『旅人』が小さく溜め息をついた。
「俺の人生なんて、後悔の固まりみたいなもんだ。けどな、お嬢ちゃん。こんな言葉を知ってるか? 人生なんてものは後悔の連続なんだよ」
 軽薄な調子の薄れた、張りのある声で言う。
「僕はないけどねぇ」
 のんびりと、興味がなさそうに伸びをしながら黒猫が呟いた。それを聞き咎めた『旅人』の眼が楽しそうにきらりと光る。
「そりゃぁ、君は。お気楽なネコくんだからねぇ」
「何だと?」
 騒ぎ始めた二人をにこにこと見つめていた『少女』は、『魔術師』がこっそり溜め息をついた事に気付いて首を傾げた。
止めないの?
「させておく。この空間は、既に安定しているからな」
 そう言いながらも、再度溜め息をつく。しかめた眉間の皺がぐっと深くなって、『少女』はくすくすと笑いをもらした。
「それで、おまえの答えを聞かせてもらおうか?」
わたしは……
 笑んでいた唇を引き結び、『少女』は胸元で両手を握り締める。そして、黙って佇んでいる『影』へと視線を馳せ、大きく息を吸い込んだ。
わたしは、戻ろうと思う
何故、そう思う?
 僅かに眼を見開いて、『影』がそのわけを問う。
幾つかの夢を見て、思ったわ。わたしは、あの世界ではきっと幸せにはなれないのだろうなって
 いつのまにか、じゃれあいをやめていた『使い魔』が、不服そうに声をあげた。
「じゃぁ、ここにいればいいじゃないか」
 『少女』は驚いたように一瞬言葉をのみ、それから小さく微笑んだ。
でもね、それじゃ何も変わらない。わたしは、もう、逃げたくないの
「へぇ、随分な心変わりだね」
 揶揄するように、『旅人』が言う。怒るそぶりもなく、『少女』は頷いてみせた。
いつまでもいつまでも。逃げているだけじゃ、前に進めない。わたしは、自分で前を切り拓いて生きたいの。だから、わたしは、あの世界に戻ります。戻って、現実を精一杯生きてみる。それで、いつかこの世界に。夢迷宮に、戻ってきたいの。胸をはって、あなた達と話が出来るように
 きっぱりと言った『少女』の表情は、ここにきて始めて瞳を開いた時とはまるで別人のようで……。多少の戸惑いを覚えながら、『魔術師』は彼女に手を差し出した。
「そう決断したのなら、早く戻るといい。その答えは、決して過ちではないと私は思うから」
ありがとう、わたしを、助けてくれて
 その手をとって、にこりと笑いながら『少女』が言う。
けれど
 ふと、不安そうに表情を崩して、彼女は『魔術師』に訊いた。
どうやって、身体に戻ったら良いのかわからないわ
 『魔術師』はふ……と、小さく相好を崩し『少女』の手を離す。
「強く、想うことだ」
 言葉の足りない彼を補うように、『旅人』が言葉をつなぐ。
「生きたい、と」
「そして、もう、逃げたりしないってさ」
 主人の足元に落ち着いた『使い魔』も、そう言葉を付け足した。
強く、想うことだ
 最後に『影』がそう言った。『少女』は頷いて、祈るように両手を胸元で組み合わせる。
強く


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SCENE11 対峙 [夢迷宮【完結】]

もう、手後れだったのかな? 何もかも、遅すぎた?
 ぼんやりと、『少女』が呟いた。
 上下左右のない漆黒の闇。自分の姿さえ、見えない。何も、見えない。そこに存在するものは、本能的な恐怖心のみだ。
また、泣くのか?
 ぽつりと呟く声に『少女』はいまひとりがここに存在することを悟る。
そこに、いるの?
ああ。ここに、いる
 その声には怯えの欠片も見えず、『少女』は深く溜め息をついた。
何だか不思議ね。あなたは確かにわたしなのに。まるで違う人なの
 暗闇の中、くすりと声が伝わって『影』が小さく笑うのがわかる。
当たり前だ。わたしは、おまえが捨ててきたおまえの『影』なのだから。わたしは確かにおまえで。けれども確かに別の存在
 『少女』は何も言えずに、ただ俯いていた。
そもそも、おまえがこの空間に迷い込むような力をつけたのは。わたしとおまえが、全く別の存在だったからだ。おまえは心の成長をやめ。わたしは、この暗闇の中でひとり成長を続けてきた。ひとつの意識の中にある、あまりにも隔たりの大きい二つの心。その歪みが、この場所へとわたし達を導いた
 この暗闇の中で、ひとり。
 その言葉だけが『少女』の耳に強く残る。
これは、あなたの夢なの?
 『影』は曖昧に微笑んだ。その笑顔は、どこか哀しみに泣いているようにも見える。
そう、ここはわたしの夢。何もない暗闇の住処。わたしは、ここからずっとおまえを見ていた。優しく、美しい、おまえの夢を、ずっと、見ていたんだ
ごめんなさい
 泣き出しそうな表情で言う『少女』を『影』は意外そうに見つめた。
何故、謝る?
何故って……わたしが、あなたを切り捨てたから。わたしが、受け入れられなかった全てがあなただから。わたしのせいで、あなたに辛い思いをさせたから
 『影』は口許に微かな笑みをのせる。
だからといって、おまえがわたしに謝る必要はない。わたしは、紛れもなくおまえ自身なのだから。わたしに詫びると言うことは、自分自身に詫びているのと同じこと
そう、ね
 一寸先も見えない程の暗闇なのに、何故か『少女』の眼に『影』が映った。
 二人はゆっくり、瞳を交わし。どちらからともなく、笑いあう。
おまえは、何を、選ぶ?
 囁くように、『影』が訊いた。『少女』は一度眼を閉じて、大きく息を吸い込みながら眼を開く。もう、既に心は決まりかけているのだけれど。まだ迷いがある。その答えに。
わたしは……


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SCENE10 放たれる衝動 -4- [夢迷宮【完結】]

―4―

 暗闇に浮き上がるように、対面して立っている二人の少女。『影』と呼ばれる存在は、相変わらず丸いものを大事そうに抱きかかえたまま、にこりともしない。対する『少女』は臆病そうにあちらこちらに視線を彷徨わせ、落ち着きなく立っていた。
「自分を認めない奴は消してしまえばいい」
 囁くように、そう誘われる。それは、『悪魔』の声。
「けれども、あなたは、認めてもらえるように、努力したのですか?」
 静かに諌める、知的な声。それが『天使』のもの。
「いらない奴は、消してしまえばいいんだ」
「あなたにとって必要のない人間でも、他の誰かにとっては必要な存在なのかもしれない。そんなふうに、考えたことはありますか?」
 己の心の内から響いてくるような、異なる二つの声に、心が裂かれそうだと思う。もうやめて。そう叫びたいのに、何故だろうか声が出ない。
「自分に害を与える存在は、全て消滅してしまえばいい」
「ひとり残されて悲しい思いをするのは、あなたです。きっと、あなたはひとりでは生きてゆけない」
けれども、気づかない。最後の一人を失うまでは。そして、その心に、大きな傷を残す。生涯、癒えることのない、深い傷を
 『影』である少女の、昏い囁き。耳を覆いたくなって、けれども『少女』はそうすることが出来なかった。
「俺達の囁きは、永遠に拒まれることはない。人間が望む限り、俺達の言葉は必要とされる」
「彼らの言葉に、心奪われた人間達には、我々の声が届かないのです」
 哀しげに、『天使』が嘆く。
「あなたが、あなたを、認めない限り」

――わたしが、わたしを、みとめること。
――きづいたときには、もう、おそくて。
――こうかいしても、おそすぎて。

「俺達は、手を貸してやるよ」
「我々は、何もしてあげられません……」

――せかいでたったひとりになって、ようやくきづくの?
――わたしはわたし。
――わたしのそんざいの、イミは。
――わたしが、わたしであること。
――ほかの、なにごとでもなく。ただ、それだけのこと。
――かけがえのない、そんざいであるのだと。

 低く、意地の悪い『悪魔』の声が木霊する。
「気づいた時には、手遅れなんだよ」


 不意に騒然となった夕暮れの細い路地に、響き渡る悲鳴。慌ただしく誰かが走り寄ってくる気配。
 世界が、ぐるぐる回っている。酔ってしまいそうだ。少年はそう思って、深呼吸をした。
 閉じていた眼を開いた時。はじめに飛び込んできたのは、血まみれで倒れている男で。それは、自分の通う学校の数学教師だった。
 そして……血に濡れた己の手。辺りのざわめきが、すぅっとひいて行くような感覚に陥る。額に、じわりと冷たい汗が滲む。
「あ……ぁ…………?」
 手の力が抜けて、ナイフが地に落ちた。固いアスファルトにはじかれて、それは二,三度はねて高い音を奏で動かなくなる。
「お、れ、が?」
 怯えたように後退り、彼は大きく首を左右にふった。
「俺が、やっ、た?」
 唇が震え、鼓動が煩い程に速くなる。
「あぁ……ぁっ! …………うわぁ…………ぁぁぁっっ!」
 意味のない、叫びが唇から零れ出た。動揺のためか、恐怖を押し隠すためか。身体を大きく震わせて、少年は絶叫する。
 喉が裂けて、血が溢れても。彼の声が止むことはなかった……。


 ああ。そうか。ふと、そう思って『少女』は顔をあげた。
あれは、わたしの中にもあるかもしれない、こころ。もしかしたら、なっていたかもしれない、明日のわたし
 まっすぐに『影』を見つめる。『影』はほんの少し、和らいだ表情で少女を見つめ返した。
「衝動に身を任せれば、楽になれるさ」
「彼らの言葉に心動かされた人間には、我々の声は届かないのです」
 どこからともなく聞こえてきた『天使』と『悪魔』の声。この限られた夢幻の空間の中で、いったいどこから聞こえてくるのか不思議だった。
そうして、堕ちてゆく。昏く淀んだ、光のない世界へと
 微笑んだ形のままの唇で『影』が囁いた。『少女』はゆっくりと微笑み返して、『影』のほうに両手を差し伸べる。
わたしは、堕ちたりしないわ。だって、ちゃんと気付いたから。全て、受け入れることが出来そうだから
ほぅ?
わたしは、わたし。あなたも、わたし。そして、彼らも。全て、わたしの一部なの。愚かしくても愛おしい。そう思えるの。今ならわたし、ちゃんと選ぶことが出来るわ。何が正しいとか、全て知っているわけではないけれど。間違うことはあるかもしれないけれど。それでも、選んで生きて行くことが出来る
 『影』の厳しい表情がはっきりと和らいだ。ここに来てから初めてみせる極上の笑顔を浮かべる。
それは、とても簡単なことで、とても難しいこと
ええ。わかっている
 きっぱりと頷いて『少女』は『影』に触れた。その途端、『影』が大切そうに抱きしめていた丸いものがはじけたように消えてしまう。
 『二人』は、驚いた様子もなく顔を見合わせて笑いあった。

――大丈夫。形なんてなくても、わかっているから。
――それは、わたしの中に、必ずあるものだから。
――だから、大丈夫。


←SCENE10 放たれる衝動 ―3―SCENE11 対峙→
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SCENE10 放たれる衝動 -3- [夢迷宮【完結】]

―3―

 日の落ちかけた薄暗い道を、二つの影が進んでいた。生真面目そうな表情の小柄な少年と、神経質そうな中背の中年の二人連れだ。異質に映るその組み合わせだが、時折すれ違う人々は気にも留めない。
 居心地の悪い、息の詰まりそうな空気を纏って。二人は黙々と歩いていた。少年が通学に使っている最寄り駅の近くまで来た時、初めて教師が口を開く。
「いったい、どうしたんだ?」
「別に、どうもしません。ご迷惑をおかけしてすみませんでした」
 無表情のまま少年がそう詫びる。カタチだけのその言葉に、何故か教師は満足げに頬を緩ませた。その様子をみて少年の瞳に微かな侮蔑の色が混じる。
「どうもしないってことはないだろう? 何かあったんじゃないのか?」
「何かって、何ですか?」
「ほら。家庭で、何か問題とかな。他にもあるだろう、いろいろとな」
 少年は教師に悟られない程度に、眉を寄せた。親切心だとかそんなものではない。好奇心。彼の顔が物語るのは、その三文字だ。
「ないですよ、別に何も」
 冷え切った瞳でそう言うのに、教師はなおも踏み込んでこようとする。
「そんなはずはないだろう? それじゃ、勉強のことか? おまえのような生徒が、何もなくてこんなことをするはずがないんだから」
 少年の瞳に剣呑な光が宿った事に、彼は気づかなかった。
「俺のような、生徒?」
 小さく、口の中で反芻する。唇に完全な嘲笑が浮かんだ。
「おまえは、生活態度も真面目だし、成績もいい。全く、模範のような生徒だ。先生はおまえを信用しているよ。だからおまえも先生を信用してくれないか? 大丈夫。他の先生や、ご両親には話さないよ」
 少年はゆっくりと右手をズボンのポケットに入れた。
「どうして、だよ」
「あぁ。ここじゃ、話しにくいな。どこか、入るか」
 くるりと辺りを見回す教師の、喉の辺りを睨み付ける。
「どうして、俺を見てくれないんだっ? 俺は、数字なんかじゃない! いつもいつもいつも、みんなわかったような口を利いて! 本当は、何にもわかってないくせにっ!」
 唐突に大声になった少年の、華奢とも言えるような右手に握り締められているものは、銀色の刃のナイフで。
「な、んのつもりだ?」
 教師は急速に口の中が乾いてゆくのを感じた。完全に据わった眼で、少年が一歩足を踏み出す。
「あんたたちは、何もわかっちゃいないんだ。そう、何も」
「お、落ち着きなさいっ、とにかく、話を」
 後退りながら教師は奇妙な笑みを浮かべた。
「みんな、いなくなってしまえばいいんだっ!」
 悲鳴のように叫びながら、少年は一気に彼の懐へ飛び込む。
「くっ……」
 左胸に深くナイフを受け、教師は苦しげに息を吐いた。その身体がゆらりと傾ぎ力を失う。

「何もわかってないんだ。……何も」

 行き交う人々の悲鳴が、遠くから聞こえる。とても、とても遠い処から--。


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SCENE10 放たれる衝動 -2- [夢迷宮【完結】]

―2―

 少年の予想通り、事務所に入ってきたその教師は、生徒の顔を見た瞬間凍り付いた。
「おまえ。……何かの間違いじゃないんですか?」
 驚愕が薄れて、初めに飛び出したのがその言葉だった。
「いいえ。ちゃんとカメラにも映っていますから。ご確認なさいますか?」
 店員は、少年に対するものとは全く違う態度で、私立高校の教師に接している。
「まぁ、お座りください」
 そう勧められて、教師は少年の隣に腰を下ろした。そして、じっと彼を見つめている。
(どうして、おまえが?)
 そんな表情だった。
「お手数ですが、そこの用紙に必要事項を書き込んでいただけますか?」
「はぁ」
 教師は生気のない返事を返し、ペン立てにあったボールペンを手に取る。
「まったく、名前も言わんのですよ」
「だからって、どうして先生なんか呼ぶんだよ」
 口の中だけで、少年が呟く。二人共、少年の方に注意を払っておらず、その呟きは吸い込まれるように消えて行った。
 溜め息を大袈裟に吐き出しながら、教師は用紙に記された名前や住所などの欄を埋めて行く。黙々と作業を進め、記入し終えて息をついてから、彼は慌てた様子で顔を上げた。
「警察には」
「まだ、連絡はしていません。おたくの学校の生徒さんだと一目でわかりましたからね」 何かと不都合もあるでしょうし。と、人の良い笑顔を繕う。

――学校の名前。俺じゃなくて、学校。
――俺は、どこにいるんだろう。
――俺という存在は、どうしてここにいるんだろう。
――俺を現す評価を、全てを失ったとしたら、俺という存在に、何か価値は残るのだろうか。

 遠く。教師の声が耳に届く。
「このまま引き取らせてはいただけませんでしょうか? この子は、真面目な生徒なんです。服装もしっかりしていますし、成績は常にトップクラスで。今回のことは、本当に、魔がさしたとしか」

――俺のことを何も知りはしないくせに。
――何故、あんたが俺のことを語っているんだ?

 店員は、元よりそのつもりでしたよと請け合っていた。
「おたくの生徒さんのことですから、その辺はわかっているつもりです」
 少年の口許に、嘲笑めいたものが浮かぶ。
「ほら、立って。行くぞ?」
 教師に掴まれた腕が、痺れるように拒絶を示している。けれども、少年は素直に従った。その瞳には何の感情も映ってはいない。
「二度とこんなことをしないようにな」
 彼は、鷹揚に言ってみせる店員の顔を無感動に見つめた。自分は何と寛容な人間なのだろうと、己に酔っているその顔を。醜く歪んだ、その顔を。
「………………」
「返事をしないかっ」
 小さく諭すように教師が彼に囁くが、彼はじっと店員の顔を見つめているだけだった。教師はごまかすような笑いを唇に張り付かせ、少年の肩に手を添える。そして、その背をぐっと押しながら己だけ深く頭を下げた。
「それでは、失礼させていただきます」

 全てが空虚な嘘に思える『今』という時の中で。ドアの閉まるきしんだ音だけが、現実として心に残る。


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SCENE10 放たれる衝動 -1- [夢迷宮【完結】]

真っ暗な闇の中に、取り残された気持ちでした。
いつも、わたしは、ひとりきり。
誰も、わたしを見てはくれません。
本当のわたしを見てくれる人は、誰もいません。


わたしを見て! わたしはここにいるの!
わたしの存在を否定しないで!
その想いは、強くなり、いつの日か心の引鉄を引く。
きっかけは……ほんの些細なこと。





―1―

「ちょっと君! 待ちなさい!」
 小さいけれども強い声で、そう声をかけられて少年はびくりと身を竦ませた。軽く掴まれた肩にじっとりと汗が滲んだ気がする。有線かなにかの放送が、ゆったりとした音楽を送り付ける店内で。何故か、彼の周りだけ時間が忙しなく流れているような感覚だった。
 店内には従業員二人と自分。そして、肩を掴んでいる男の合わせて四人しかいない。
 店内と外を隔てているガラスの壁の向こう側が、とても遠い世界に思えた。
 真夏に近い、強い日差し。梅雨明けの爽やかな風。忙しそうに行き交う人々。自分はそれらを見ているけれども、それらは自分を見てはいない。
「何ですか?」
 平静を装い、必要以上に大人びた口調で彼は言った。
「君、さっき……ポケットの中に何か入れただろう?」
「いいえ」
 掴まれた肩。嫌な感覚。ひどく、身体が熱い。けれども、少年は生真面目そうな表情のままで、小さく首を振ってみせる。
「じゃぁ手を出して。ポケットの中のものを見せてみなさい」
 店員だろうその大柄な中年男は、馬鹿らしいほど威圧的な調子でそう言った。それが少年の癪に障る。
「何故ですか? あなたにそんなことを言う権利があるんですか?」
 大人しそうな、従順さを装ったその口調に、店員はむっとした様子で眉をひそめた。
「権利って……君、ねぇ。ちゃんと、あそこのカメラにも映っているんだよ? つまらない言い訳をしていないで、ほら、こっちに来なさい」
 肩から手が外された。そう思った瞬間、左腕を強く掴まれる。たまらない嫌悪感に、少年は眉間に皺を寄せた。
「何すんだよっ! 離せよっ」
 振り払おうとして上げた、右手を軽く押さえつけられる。
「俺は、何もしてねぇよっ! 聞いてんのかよっ」
「何もしていないのならば、ポケットの中のものを出せるだろう」
 冷たく言い放ち、店員は事務所の扉に手をかけた。パタン、と扉の閉まる軽い音と共に、店内には音楽のリズムだけが残される。
 いつの間にか、それは、軽快なものへと曲調を変えていた。

 殺風景な事務所の一角にある、簡易式の椅子と机。そのパイプ椅子に座るように促された少年は、大人しく指示に従った。生真面目そうな表情はそのままに、けれど眼には強い反抗の色を浮かべて。中年の店員は、溜め息と共に机をはさんだ少年の正面に自らも腰を下ろした。
「君、名前は?」
「………………」
「じゃあ自宅の電話番号は?」
「………………」
「こういうことをするのは、初めてなの?」
「………………」
 少年はそれとわかるほどにはっきりと眼を反らし、薄緑の壁についた染みを見つめている。努めて穏やな口調を繕っていた店員の声が、次第に苛立ちを帯びて来た。
「君、ねぇ」
 呆れたような低い声に、少年はふと壁から男へと視線を戻す。
「そんなこと、言う必要、ないと思います」
 店員は、先程から何度目かわからなくなってしまった溜め息を吐き出し、少年をじろりと見やった。彼が着ているのは私立高校の制服だ。当人に自覚があるのかないのかはわからないが、大方、誰が見てもそうとわかる有名な進学校のものである。
「君が話せないというのならば、君の学校の先生にひきとりに来てもらうしかないね」
 言葉と同時に店員は立ち上がり、事務所の電話に近づいた。
「冗談じゃない」
 少年がぽつりと呟く。
 その間に店員は、慣れた様子で電話に応対し、必要もないのに相手にお辞儀をして電話を切った。少年のほうに向きを変え、しばらくの間を持たせてから告げる。
「生活指導部の主任の先生が、来てくださるそうだ」
 少年は嫌悪に眉を寄せた。

――生活指導部の主任。
――あいつは俺達のことなんか、何一つ見ていない。
――あいつらの頭の中あるのは、数値化された俺達なんだから。俺達の成績のことしか、見えていないんだ。
――きっとあいつは、俺をみて、ひどく驚くんだろうな。


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SCENE9 己の影 [夢迷宮【完結】]

 いつのまにか主人の肩の上に登った黒猫が、ヒゲを小刻みに震わせた。
「やだやだ。これだから、人間ってやつは好きになれないんだよな」
あれは、わたしじゃない
 ちらりと目線を投げられて、『少女』はそう呟いた。むっとした様子で、『使い魔』がくってかかる。
「どうして、そんなことわかるのさ? あんたにわかるわけないだろ?」
わたしは、あんなに大人じゃないし。これが、仮初めの姿だから好きに変われるのだとしても、わたしは、あんなに深く強く人を好きになったことなんてないと思うわ。わたしは、いつも曖昧に笑いながら生きていた気がするから
「へぇ、そうかい」
 鼻先で笑うように、黒猫が言った。腕組みを解いて、『旅人』が溜め息をつく。
「しかしまぁ、何だな。盲目的な愛ほど見苦しいモンはないって言うが。本当だな」
「そのようだな」
 醒めた表情で『魔術師』が応じると、彼は不快そうに眉を寄せた。
「何だよ、随分醒めてるじゃないか」
「私には、縁のないことだからな」
 感情を抑えた低い声。
「嘘だ」
 主人には聞かれぬように、小さな声で『使い魔』が呟く。
「縁のない? ……はっ、良く言うぜ」
 せせら笑うように、『旅人』が言った。『魔術師』は声のトーンを、更に低めて『旅人』を睨み付ける。
「何が言いたい?」
「さぁな。俺が何を言いたいのか、一番良く分かってるのは、おまえだろ?」
「何のことを言っているのか、私にはわからぬな」
「ご主人様」
 厳しいその顔つきに、黒猫が身を摺り寄せた。しばらく、その顔つきのまま沈黙を守り、彼は大きく嘆息する。
「いや、認めたくないだけか」
 そして、虚空に視線を彷徨わせそう呟いた。
何か、あったの?
 すっかり蚊帳の外に置かれていた『少女』が、小首を傾げながらそう訊ねる。
「こいつはな、お嬢ちゃん。色恋沙汰には興味ありませんって顔してるが。未だに一人の娘のことを忘れられないでいるんだ」
 驚いたように、『少女』は長身の男を見つめた。『魔術師』は諦めたように肩を竦め、小さく肯いてみせた。
「否定はしない」
 そんな『魔術師』を横目に、『旅人』が言葉を続ける。
「あれは……もう、随分と昔の話だ。夢を渡る力を持つ一人の娘がいた。その娘とこいつは、この夢迷宮で出会い、やがて互いを愛するようになっていった」
 不機嫌そうに、『魔術師』がそれを遮った。
「何故、今、そのような話をする」
「この際、おまえさんに、自分の心ってやつを認識して欲しくてね。これは、いい機会だろう?」
「余計なこと、すんなよっ!」
 主人の肩から飛び降りた黒猫が、全身の毛を逆立てて唸り声をあげる。
「じゃあ、おまえは『ご主人様』がこのままでもいいって言うのか?」
「それはっ、いいなんて思ってないけれど」
 弱気になって口篭もる『使い魔』を、一瞬だけ優しい眼で見つめ『旅人』は口調を強くした。
「なら、黙って聞いてろよ」
 諦めたような表情で口を閉ざした『魔術師』をちらりと見やってから、彼は『少女』のほうに向き直った。
「娘は、こいつのことを同じ能力を持つ人間なのだと思っていた。けれど、ある時気づいてしまったんだ。こいつの纏う空気は人間のものではないってことに。二年たっても、五年たっても、姿が変わらない。娘の姿は刻々と変化して行くというのに。娘は問うた」

【あなたは、誰?】
【あなたは、何者なの?】

 遠くを見つめるように。過ぎ去った過去を垣間見るように。『魔術師』が眼を細めて嘆息する。
「私は、答えなかった。いや、答えられなかったのだ。今は無邪気に笑いかけてくるこの娘も、私の正体を知ったら、他の者のように恐れるかも知れぬ。そう思うと、答えられなかった」
 『少女』は何故か息苦しくなって、己の左胸の辺りを軽くおさえた。どうしてだろうか。鼓動が速くなっている。
恐かった、の?
「ああ。私はその娘を失うことを何よりも恐れていた。けれども、娘の問いをいつまでも無視しつづけるわけにはいかぬ。どうせ私の許から去って行くのならば、いっそ私から去ってしまおう。そう思った私は、二度と娘の前に姿を現さないことを心に誓った」
「そして、ある日突然姿を見せなくなったこいつを、娘は必死に探した。夢を渡り歩き幾日も眠り続けたんだ」
 『旅人』の言葉に、彼は重く項垂れた。
「ほうっておけば、どうなるのか。私にはわかっていた。けれども、私は。どうしても彼女の前に姿を現すことが出来なかったのだ」
 しゅん……と髭を下げて、黒猫が呟く。
「あの子はね、長い間、夢を見続けて。心と身体が離れてしまったんだ。そして、そのまま天へと召されてしまったよ。あの子が見た最後の夢は、探していたご主人様と再会するってものだった。夢なのか本当なのかわからないそれを見て、僕はとても悲しくなったんだ。幸せそうに微笑んでいたあの子の顔が、今でも忘れられない」
 足元の『使い魔』に眼をやって、それから天を仰ぐように首を仰のかせ、『魔術師』は自嘲的に囁いた。
「その夢の中。彼女は私に告げた」

【あなたが、例え、何者であっても】
【あなたが、例え、とても恐ろしい存在なのだとしても】
【私は、あなたを愛している】
【ただ、知りたかっただけなの】
【あなたが、何者であるのか】
【知りたかっただけなの】
【……本当よ】

「その時には、もう手遅れだったのだ。彼女はもう、身体には戻れなかった。全ては、私の責任だ」
 低く、きっぱりと彼は言い放つ。黙り込んで唇を噛みしめる『少女』に、『旅人』が笑いかけた。
「どうして、助けたのかと訊いたな? こいつは、こう考えてあんたを助けようとしているんだよ。『過去の罪滅ぼし』……そうだろう?」
 言葉の後半は『魔術師』に向けられたものだ。きょとん、とした表情をその金色の眼に浮かべて黒猫が首を傾げた。
「そうなんですか? ご主人様」
「違うとは、言えぬな」
 ひどく自嘲的な色を、彼はその瞳にのせる。誰も口を開く気になれず、長く重い沈黙が続いた。
 唐突に、第三者の声によってその沈黙が破られた。抑揚のない、澄んだ声音が響き渡る。
つまり、あんたは意気地なしなんだね
 三人と黒猫は、一斉に声のした方を見た。そこに、一人の少女が佇んでいる。
「うわぁ、同じカオしてるよ」
 感心したように『使い魔』が呟いた。『旅人』はまったく興味を示さずに、くるりと彼女に背を向ける。
「『影』か」
 ただ一言。それだけを呟いて。
「意気地なし、か」
 唇を、自嘲するように歪めて『魔術師』は眼を細めた。そして、『少女』の『影』である少女をまっすぐに見つめる。
「私には、似合いの言葉かも知れぬな」
 『影』は答えずに、ただ嘲笑を浮かべた。
もう一人の……わたし?
 『影』は『魔術師』から視線を逸らし、立ち竦む『少女』へ目線を据える。
そう。もうひとりの、おまえ
 『少女』は瞬きすら忘れた様子で、じっと『影』を見つめた。

やっと、会えたね……

 囁くように、吐き出された言葉。
 紡いだのが、『少女』なのか『影』なのか。それは、彼女達にも、分からなかった。


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